The Future Lost in Type
Vol.01 BITMAP
文字の中に消えた未来 —Vol.01 ビットマップ—
哀愁の未来とサバービアの空想
ベビーブーマーの子供たちがティーンエイジャーになった頃、彼らの多くが暮らす郊外(サバービア)を舞台にしたSF映画がたくさん作られた。全盛期のスピルバーグ関連の映画をあげれば多くのひとにもニュアンスがつたわるだろう。エリオット少年がBMXで月夜の空に浮き、マイキーが仲間とともに宝探しをはじめ、マーティーマクフライが車につかまりスケートボードに乗っていたあの世界線だ。
サバービアSFのキーは、少年たちの住む平穏な郊外の世界を主軸にすぐそばにある「大きな危機」や「異世界」を見せることにあった。現実をベースにして巧妙にありそうな事実を重ねて、様々なものがサバービアの少年へと接続された、エイリアンからタイムマシンまで。たくさんの日用品のなかにこっそりと仕掛けられていた虚構の演出の数々にのめり込み、僕らはその度に、ふわっと宇宙や未来に近づく幻を感じることができた。
そんなサバービアSFの中でも今にピッタリの題材を扱った映画が『WAR GAMES』だ。郊外に住む少年ハッカーがAIと世界滅亡をかけた核戦争のゲームを始めてしまうという内容で、チープな作りも合間ってコンピューター好きにはカルト的な人気がある。
日常にはコンピューターがまだすこし遠い存在だった頃、郊外の少年たちへ向けてコンピューターを渇望させるために、テクノロジーによるシズル感満載の映画演出で、文字だけの画面という一般人には退屈極まりないものをエンターテイメントにしたてあげている。今回は、そんな『WAR GAMES』をもとにエレクトロニクス周辺におけるタイポグラフィーを掘り起こしてみたい。
現在のようにPC画面でデジタルフォントをあつかうまでのほんの束の間の間、エレクトロニクス技術者たちが作り出し、ガラパゴスのごとく取り残された技術由来の文字の一群がある。科学技術の合理性に則して字形がつくられたおかげで人間が積み上げてきたタイポグラフィーの歴史から完全に枝分かれした道を進んでしまった、ビットマップ・ベクター・セグメントディスプレイ・MICRの4つのタイプたちだ。近年はレトロフューチャーの文脈で扱われるそんなタイプたちを、エレクトロニクスの最高到達点であるAIが現実のものになり始めた今だからこそノスタルジーとともにスポットを当ててみたい。
AIとの会話はビットマップで
『WARGAMES』はコンピューター画面を主軸にストーリーが展開した最初期の映画の一つだ。ようやく普及し始めたパソコンのイメージを最大限に利用して日常から異世界へストーリーを展開させる。
そして、それは当時まだ不可能だった『対話』ができるコンピューターのイメージを演出によって作り上げた。まるで近頃の僕らの日常になったような感じで。
物語のキーとなる場面は全てコンピューター画面の文字が握っている。特に、コンピューター画面のシーンは本当によくできていて、その後のハッカー映画のイメージの源泉になっているほど完成されてる。ブラウン管に光る文字やドットピッチと点滅するカーソルはもちろんだけれども、まるでコンピューターが考えているかのような間をとって電子音とともに一文字つづ現れる演出は、現在のAIチャットにも多大な影響をあたえている。
初期の頃のコンピュータ画面はアイコン登場前のCUI (character user interface)とよばれる文字だけの画面。しかもデジタルフォント登場以前の画面で扱えるのはたった127文字のキャラクターと一つだけに固定されたビットマップのタイプフェイスだけだ。
ちなみに主人公の愛機はIMSAI 8080で1975年発売のものなので公開年の83年にしては少し古いものだが、少年ハッカーのバックグラウンドを70年代の機種で見せることで筋金入りの愛好家であることを表現していて、ディスプレイの文字は白く、軍施設のターミナルのスクリーンは緑色と対比している。物語はAIとの対話をビットマップの文字が次々と打ち出されることによって進んでゆく。
コンピュータースクリーンと文字の歴史
ここで少し文字を画面で読むという行為についての歴史を。
1950年代にはすでにTVがアメリカで一般家庭に普及し始めます。人々の画面との出会いは画像の方が一足早く音声とともに眺める映像の機械として始まります。1960年代から70年代にかけて、軍や大学などの研究施設でつかわれていたメインフレームの大きなコンピューターの入出力をする端末が、紙へ印字するテレタイプ端末からビデオ表示端末 VDT(Video Display Terminal)へと置き換わります。最初期のものでは1964年IBM 2260、最も有名なものは1978年に登場したVT100と呼ばれる機種です。いわゆるレトロコンピューター感満載のこのターミナルの登場で人類は文字を画面で視認する文化が始まりました。その後、アーケードゲームなどの流行やホビー用途のパソコンの普及で街や家庭で一般の人々が画面で文字を読む文化が始まります。
ASCIIコードとCGROM
デジタルフォントが登場する以前、コンピューターで利用する文字はシステムの一部として考えられていて、如何にして少ないデータで可読可能な文字を表示させるかという技術的な制約を効率化するため技術者が中心の世界でした。
まず、メインフレームコンピューターを操作するテレタイプのために1963年にASCII( American Standard Code for Information Interchange)が定められます。0番から127番までの番号(数値)がどの文字や記号を意味するかという対応関係を定めた文字コードです。大文字、小文字、約物、数字、制御文字の127文字を番号と対応させることで、文字をコンピューターで扱う規則ができます。
VDT以降、このASCIIコードに対応した文字の形を画面に表示するために、文字の形をあらかじめデータとして作りそれをROMに焼きつけたCGROM(Charactor Generator ROM)というものを使いました。当時のコンピューターのメモリ容量は少なくとても貴重だったため、画像データの生成を直接コンピューターで扱うことはせず表示専用のメモリーをハード側で用意していました。VDTの時代には、ハードのメーカーや半導体メーカーがこのCGROM内の文字を作っていたことになります。
ビットマップのタイプフェイス
CGROM内に収める文字はドットの集合体として文字を設計します。同じサイズのグリッドを使ってマス目の表示・非表示を定めることで点の集まりを画像として描写します。この表示方法をビットマップとよびます。
白黒で表示する場合、一つのマス目が1ビット(1ビットとは情報の最小単位で、0か1のどちらだけを表せる状態)となり、グリッドの分割の大きさ(解像度)が、データサイズと文字の判別性との直接的な関係となり、技術者は制約の中で効率的な文字形を追及しました。
5x7マトリックス
5x7のグリッドによって作られたビットマップフォントは、もっとも少ないビット数で人間がアルファベットの形を理解できるようにすることができます。最小限のビット数とは、例えば、文字の線幅が1ビットである場合、「B」や「E」の上下に3分割される線がある場合、線に3空白に2を使うため、最低でも縦に5つのマスが必要になります。同様に「M」や「W」の左右に分割する場合は横に最小でも5つマスが必要になるため条件的にカタチが決まります。サイズを限界まで削り識別性に特化した文字は、現在もLCDモジュールなど組込みの世界で使われています。


7x9マトリックス
映画の中でコンピュータースクリーンで使われていた文字の多くはVT100系統のビットマップフォントで7×9のグリッドによって作られています。70年から80年代前半までの間、初期のコンピュータービデオ端末VT100で使われていたもののデザインを踏襲してCGROMがつくられていたためとても一般的でした。5×7と基本的には似ていますが、左右に1ビット余白のドットがはいるためより視認性が高まり、縦方向の余裕により「g」「q」「y」などのディセンダーがある文字が可能になっています。


8×8マトリックス
映画内のアーケードゲームにも登場していたのが8x8のビットマップフォントです。ビデオゲームのグラフィックパーツなどの設計も含め8x8グリッドが使われていたため、8x8のマトリクスはゲームとの親和性が高く、いまでもアーケードゲームを象徴するタイプフェイスとなっています。ATARIフォントなどが有名。ビデオゲームの表現向上のために8x8の中で様々なタイプの表現に挑戦した、とても奥深い世界をより深く知りたい方は大曲都市さんの名著『アーケードゲーム・タイポグラフィ』がおすすめです。


スキャンラインと文字の色
ブラウン管(CRT)は、画面奥の電子銃から電子ビームを発射し、画面内側に塗られた蛍光体に当てて発光させることで映像を表示する仕組みです。電子ビームは磁力によって制御され、画面を左上から右下へ向かって横線1本ずつ高速で走査します。文字を読みやすくするため、初期の端末では緑色やアンバー(橙色)の蛍光体がよく使われていました。画面を走査する際にビームの上下に間隔が生じこれをスキャンラインとよびます。このスキャンラインがビットマップの文字に横方向の縞模様をもたらし、蛍光体の緩やかな残光と合間って、この時代独自の雰囲気を作り出しています。
ビットマップの現在
ビットマップフォントはコンピューターとともに歩み始めた人類が生み出した効率を極めた新しい時代の文字のデザインであり、基本技術としても文化的にもとても意味深い文字のスタイルだと思います。1984年Machintoshiが誕生します。スティーブ・ジョブスにカリグラフィーの心得があったため美しいフォントが導入された逸話は有名ですが、Macの登場でビットマップの文字の世界が大きく変わります。CHICAGOやNEWYORKという有名フォントが登場し、GUIと共に新時代を築いてゆきます。TrueTypeが標準化された90年あたりからビットマップフォントたちは徐々に役目を終えてゆき、システムの奥底に格納されたものだけが残っています。しかし、ビットマップによる文字の表現は、小型表示画面をもつガジェットや計器、乗物や駅の電光掲示などの表示器、ラベルやチケットなどサーマルプリンタで印刷されるものなど、今でも様々な場所で使われています。今後はマトリクスにも気を配ってデザインを見てみると新たな発見があるかもしれません。